今日も雪が降る。
私達にとって、寒さは必ずしもプラスに働かない。けれど少なくとも私は寒さで困ったことはなかった。私は長年雪国とも呼べるところで暮らしていたし、寒さに強いのは血筋でもある。
霧のように細かな粉雪が降り注ぐ中、私は当てもなくふらふらと空を飛んでいた。月光が雪を照らし、神秘的な輝きを生み出していた、しかしこれに気づく者が一体何人いるだろうか。
かつての故郷の場所を知る者は、ケロン星にも数えるほどしか残っていなかった。あくまでも聞いた話であるから、本当はひっそりと生き伸びているかもしれないし、もっと少ないのかもしれない。寂しさよりも嫌悪が強いのは、母のせいであろう。

足元に広がる山脈を眺めて、私は真っ白な息を吐いた。




〜アイスピック〜




魔術師でありながら、軍に所属していると言うのはいかがなものなのか。
訓練所の同期だった人に、唐突に質問されたことがある。
確かに魔法などと言う非科学的なものを扱う私が、科学の粋をありったけ集めた軍に所属し、科学から生み出された武器を扱う兵士たちとともに魔法を使って戦う私は浮いた存在と言えるだろう。
今も昔も魔法を使い戦う兵士も珍しくはないし、どちらも己の武器として戦う兵士もいる。しかし彼は納得していなかったようで、研究所の出身という時点であまりよく思っていなかったようだ。
私は戸惑いもせず、彼に嫌悪を抱くわけでもなく、自然に口をついて出た言葉を答えとした。
「魔術師であることを恥だと思った事は無いわ」
彼はそうか、と言った。
私が常に携帯している杖を見て、それは本当に綺麗だ、と微笑んだ。彼は美しさに関して差別も偏見もしない人だった。
ありがとう、と私は笑った。

普通の女性として生きていくこと。
私が一番望んでいることだ。
軍人でも、一般人でも、女性として生きていくことは可能だ。私もそうなれると思っていたけれど、ある時それはありえないことなのだと知ってしまった。その原因は取り除くことが出来ないだろうと悲観していた頃、彼――現在私がお付き合いさせていただいている人に出会った。
彼はとても心優しい人だった。私のようなケロン人を受け入れてくれることに、悲しみに暮れていた私はとても癒された。彼も研究所の出身だった。
彼と一緒に過ごしている間、私は幸せな気持ちに包まれた。恋をして、好きな男性ととりとめのない話をして過ごすと言う事がこんなに心地よいものだったのか、と知り、いつ無くなってしまうかも分からないこの時を噛みしめていた。
彼に出会ったから――そう、彼が私を受け入れてくれたから、私のような女を好きだと言ってくれたから、私は孤独を求めたのだ。
私は私なりに、彼の身を守りたいから。

「……どこに行っても、何をしていても、あなたは必ず現れるのね。女の執念と言うのはいつの時代も恐ろしいものよ」
「アンタダッテ、女ジャナイ。ダカラアンタニモ執念ト言ウモノガアルハズ」
「全くない、事は無いわ。私はまだまだ幼い小娘だけれど、これまでに多くの未練を生んでは引きずってきた。要領が悪いと笑われるかもしれないし、未練がましいと疎まれるかもしれない。でも私はそれを認めるし、恐らくだらだらと引きずり続けると思う、わ」
「毎回毎回、訳分カンナイ事言ッテンジャナイワヨ」
カランッ、と稚拙な笑みを張り付けた仮面を放り捨てたこの子は、いつもと同じ赤い瞳にいつもと同じ憎しみの色を含ませて私を睨んでいた。
私は彼女に酷く恨まれ、憎まれていた。彼女がどうして私を憎むのかを口にした事は無い。唐突に私の前に現れては鎌を振り上げ、蔑んだ目(そんなつもりは無いのに、彼女にはそう見えるのと言う)をした私を切り刻もうとしてくるのだった。
望んでもいない、意味もなく殺し合いを続ける関係を、私はずっと続けていた。
それは……彼女が持つ能力を、彼女たちに教えられていたからだ。
名前をけして語らない、あのケロン人の少女たちに。


「君は……一人が寂しくは無いのか?」
「私は一人に見えるの?」
「いや、君に数多くの友人がいる事は知ってる。だけれど、君を見ていると、壁を作ってそれ以上近づかないようにしている、と思えてしまうんだ。私は一人でも平気だから、と無理をしているように見える」
「無理なんか……」
「自覚していないものさ」
私の杖を褒めていた彼は、友達とお茶をした帰りの私を呼びとめて尋ねてきた。
「無理をしている、つまり人に迷惑をかけないように一人で背負い込んでいると言うことだろう?無理をしなければ、周りの人々にそれを察知されて心配されてしまう。君は、その事情に彼らを巻き込みたくないから、何でも無いのだと取り繕って過ごしているんだ。していない、と言うのであれば、それは不安にさせまいと隠していることが当たり前になってしまった……と言う事じゃないのか?」
「……」
「けれど、そこまでするってことは、君もそれだけ重大な代物を抱え込んでいるのだろうから、私はなるべく要らない世話をしないように気をつけるよ。もう何度も余計な御世話をしてしまっているのだろうけれど……」
彼は申し訳なさそうに笑った。ああ、無理をしているんだろうな、と私にも気づくことが出来た。


「もう、諦めなさい…。これ以上戦ったって何にもならないわ」
「…うるさいわね」
いつものように止める事もできず、したくもない戦いの相手をする事になってしまった。魔法で逃げ切れるだろうに、私がいつもいつも彼女の相手をし続けて、とどめも差さずに去ってしまうのは私の甘さなんだろうか。それが彼女に「気にくわない」と牙を剥かれるのだと知っていてもなおその考えを変えることはなかった。
彼の言うように、私が気付いていないだけで、普段から私は無理をしている……?
「私は…何の目的もなく、人殺しをしているわけじゃ、ないわ!理由があるのよ!他の連中には……そんなもの、理解できないだろうし、理解されたくもない、だからッ、私は理由を人に話す事は、無いわ!!アンタを殺すのも……その理由からよ……」
「御覧なさい。それだけの傷を負ってるのに。余計に命を縮めるわよ」
「死なない、わよ……アンタに、何度、倒されても…誰も、私を……認めなくても……私は…死なない……」
死なない。
はっきりと、耳に届いた。
彼女は折れた鎌を手放すことなく冷たい土の上に倒れ伏した。
「さようなら。今度こそ、あなたと戦わねばならない時が来ないように」
切り裂かれて痛む身体に鞭打ち、私は空へと舞い上がった。


あらゆる事が、私の胸に突き刺さる。
理想も、現実も、全てが棘のように私の胸を締め付ける。
私が背負っている罪のせいだと言うなら、私はそれを受け入れるしかない。それを受け入れ、認めて、それでも自分を見失ってはならない。

「君は無理をしている。いつかその身を滅ぼす」

何度も私に忠告した彼とは、長年会っていない。
彼が今どこにいるのかも知らないが、会えるのなら会いたい。
また、あの不思議な考えを聞きたいのだ。そして思い出したように私の杖を美しいと誉めてもらいたいのだ。
今日も雪が降る。
月光に照らされた粉雪が身体に降り注ぐ。
足元の遥か下にいる彼女を見て、私は真っ白な息を吐いた。





*あとがき*

はじめまして、がーねっとですー!
……とは言ったものの、私は過去にオリケラーをやっていた者であり、短期間でありながらサイトも運営していました。
当時は小学生だったものですから、交流したいという考えだけが先走って妙な発言を連発してたような…^p^
サイトを閉じてからも、数人の方とはお話したこともありましたが最近はオリケロサイト様を覗く事も減っていました。
が、pixivでこのすんばらしい企画を発見し、それ以外にも魅力的なオリケロさん達を見たせいで再熱した、という…←

この小説は、当時私が作ったオリケロ「スノノ」の話です。
きちんとした設定を上げないままサイトを閉鎖し、オリケロから離れていたせいで、一体どういう奴なんだと言いたくなるような中途半端な設定(しかもはっきり明言した設定がほぼ無い)を持ったオリケロとなってしまった奴です……。すまんスノノ。許してくれ。
なので、小説の内容も「スノノはこういう設定があるんだ」という紹介みたいなものであり、しかもシリアスな面ばかりピックアップしたので、読んだ方によっては「?」と思うかもしれません。
しかし!設定上げてないから〜とか訳分からん理由で適当な作品を作るわけにはいかん!!ということで一生懸命書かせていただきました。
時々仲良くさせてもらっていたオリケロサイトを見ると、繋がりを残して下さっている方もいて非常に嬉しいです(´;ω;`)
離れてしまったとはいえ、今でもオリケロは大好きですぜ!!
このような企画を立ててくださった主催者様方、そしてこの小説を読んで下さった方々には土下座してお礼を言わねばなりませんね!!(意味不
では最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!!

spinel/がーねっとさん 作者:がーねっとさん

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